ロンドン在住ヴァイオリニスト・小町碧が様々な音楽活動をはじめ、英国の音楽や作曲家のエピソード等を連載。

20

ディーリアス、ノルウェーの頂にて

ヴァイオリン・ソナタ「遺作」と交響詩「頂にて(Paa Vidderne)」

 
11月に刊行となる書籍「ソング・オブ・サマー ~真実のディーリアス」(アルテスパブリッシング)、及び11月1日(水)に開催するディーリアスのヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会に向けて、遂にディーリアス・プロジェクトが始動しました。
 
ディーリアスのヴァイオリン・ソナタ全4曲を一つのリサイタルで演奏するのは、今回初めてのこと。ましてや、ソナタ全曲演奏会が開かれるのは英国ディーリアス協会が知る限り史上初のことだそうで、「英国のディーリアンもびっくり!」な企画です。
 
4曲のヴァイオリン・ソナタは、ディーリアスの生涯にわたり重要な節目にて書かれました。これ等の作品を並べてみると、ディーリアスが描いた音の世界が青春から成熟していく過程が感じられます。
一度聴いたら忘れられない美しいメロディーと共に、ハーモニーにおける幅広い音色のパレット。まるでディーリアスが愛した風景の中へタイムスリップするかのように、どこか懐かしく、魅惑的な世界が広がります。
 
ディーリアスの波乱万丈な人生ときたら、書きだしたらきりがないくらい面白い話満載なのですが、
まずはヴァイオリン・ソナタ4曲にまつわるエピソードを少しずつ「ロンドン・スタジオ」にて紹介していきます。
【ディーリアスとノルウェーの友人たち。 左から、ニーナとエドワード・グリーグ、ハルヴォルセン、ディーリアス、シンディング】
 
今回は、ディーリアスが最初に書いたヴァイオリン・ソナタ「遺作」(1892年)について。
作品番号が付いていないことから、1957年まで作品そのものが忘れられていました。
素晴らしい大曲にもかかわらず、作曲された当時、出版社C.F.Petersに「転調が多すぎて、ヴァイオリンのパートが技巧的で難しすぎる」と批判されたことから、ディーリアスは失望し、彼自身が見捨ててしまった作品です。
 
この作品を作曲したディーリアスは当時30歳。親友のエドワード・グリーグを訪ね、数カ月にわたりノルウェーでの生活を堪能した後、パリのモンパルナスにある新居で初めて取り掛かったのがこのソナタでした。
【ディーリアスが1891年のノルウェー旅行で通ったと言われているEtne からSkanevikへの道】
 
ノルウェーでは自分の作品が人生初めて演奏会で取り上げられ、「作曲家デビュー」を果たしたばかりのディーリアスは、活気あふれる思いで作曲に取り掛かりました。
第一楽章を聴くと、その「青春」が目に浮かびます。
 
【ディーリアス:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ「遺作」ロ長調、第一楽章】
 
出版社が「ヴァイオリンのパートが難しすぎる」と言った通り、
もともとヴァイオリンにとって弾きにくいロ長調という調号に加えて、高い音域で奏でるメロディーは、決して簡単とは言えません。
しかし、このダイナミックな響きや展開部にある意外な進行には、何度弾いても「偉大なる作曲家」を予期させるものを感じるのです。
 
若々しい情熱は、まるでノルウェーで初演されたばかりのディーリアスの交響詩、「頂にて」(イブセン詩「Paa Vidderne」)に出てくる主人公の若い青年を連想させます。
ディーリアスがインスピレーションを受けたイブセンの詩では、若い青年が向上心を高めるために険しい山道を辿り、頂上を目指すものの、その過程で恋に落ちるという物語があります。
まるでディーリアスの鏡のような作品、作曲家としてのスタート地点に立ったディーリアスの姿が反映されているようです。 (次回 に続く)
 
【ディーリアス:交響詩「頂にて(Paa Vidderne)」】
 
************************
【ディーリアス・プロジェクト】
書籍「ソング・オブ・サマー ~真実のディーリアス」、及び11月1日(水)「小町 碧 出版記念リサイタル」の先行予約キャンペーンがクラウドファンディングにて開始しました!
ご予約申し込みはこちら:https://motion-gallery.net/projects/delius
 
【真実のディーリアス ~小町碧 出版記念リサイタル~】
2017年11月1日(水)
開場 18:30 / 開演 19:00
小町碧 (ヴァイオリン)、米津真浩(ピアノ)
 
 

ディーリアス、ノルウェーの頂にて

ヴァイオリン・ソナタ「遺作」と交響詩「頂にて(Paa Vidderne)」

20

  11月に刊行となる書籍「ソング・オブ・サマー ~真実のディーリアス」(アルテスパブリッシング)、及び11月1日(水)に開催するディーリアスのヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会に向けて、遂に「ディーリアス・プロジェクト」が始動しました。   ディーリアスのヴァイオリン・ソナタ全4曲を一つのリサイタルで演奏するのは、今回初めてのこと。ましてや、ソナタ全...

続きを読む

ディーリアスが眺めた夕暮れ

19

  「I will meet you when the sun goes down」 (会いに行きます、陽が沈む頃に)   フレデリック・ディーリアスの楽譜にて、何度も繰り返される言葉。 このフレーズから始まる「Negro Songs (黒人の歌)、バリトン、コーラス、オーケストラのための」という作品の自筆譜は、近年発掘されたばかりです...

続きを読む

冒険心溢れる場所

18

【BBC Radio 3 Late Junction、ブロードキャスターのニック・ラスコムさんと】   今年70周年を記念するBBC Radio 3。 様々な番組が存在する中で、「冒険好きなリスナーのための場所(The home for adventurous listeners)」を追求してきたLate Junctionという番組は、音へ革新的なアプローチ...

続きを読む